売れる「タイマー」のマーケティング/似せることで生まれたヒット

今回はマーケティング思考について、「タイマー」を元に考えてみます。

まず、タイマーを売ろうとした時に、すでにコモディティと化していてちょっと考えたくらいでは差別化ポイントはこれといって見つかりません。

機能としては「分と秒とストップボタン」があれば完成です。あとは大きさ、色、形を変えるくらいでしょう。

しかし、「考え方」を変えることで売れるタイマーのアイディアを生み出すことは可能なんです。

「無駄」が「機能」へと変わる時

たとえば下の勉強用タイマーの場合、ゲーム機みたいなスタート・ストップボタン斜め見しやすい形が人気です。

特にこのボタンはいいですね。

製品に機能『だけ』を求めるのならボタンはこの形である必要はありません。下のタイマーのように最小限の機能とデザインで「無駄なもの」は排除すればいいんです。

しかし、機能『だけ』を考えていたら売れる面白い商品はできません。

あえて勉強用に特化して考えることで、キッチンタイマーには必要ない「モチベーションUP」という新たな要素を追加できる可能性が生まれます。

そしてモチベーションUPのための仕掛けとして、機能を超えた「遊び心」のあるボタンにしているんですね。

時間を生むタイマー

さらに、Amazonに掲載されているタイマーで一番売れているのは下の商品です。

形がかっこいい、ボリュームを調整できるなどの機能の良さもありますが、なんといっても一番のポイントは「設定の手間をカットできること」でしょう。

このタイマーは「3」を上にして置くと3分が自動で設定され、「15」や「25」なども簡単に設定できます。

よく使う時間を置くだけで設定できるというこの手間の削減効果こそが、他のタイマーにはないこのタイマー最大の強み、USPになっているんです。

設定する時間をタイマー側がやってくれる、使う人の時間を省いてくれる。言い換えれば、使う人の時間を生み出してくれるんです。

さらに、時間を設定するという面倒な作業をしなくて良くすることで、使う人の心理的負担を軽減してくれるんです。

実際、僕自身も使っていますがこの心理的な負担軽減効果はすごいです。

行動科学タイマー

勉強でも、トレーニングでも、ビジネスの作業でも、何らかの行動をするためには集中が必要です。

集中するには制限時間を設定することが効果があるのでタイマーが有効なのですが、時間の設定に手間がかかると行動自体が億劫になってしまいます。

人の行動はハードルが低いほど続き、逆にハードルが高いほど続かなくなりますね。

たとえばTVを観る習慣をやめたければ、TVのコンセントを毎回抜いておけばTVを観るハードルが上がってやめやすくなります。

スマホを見る習慣を減らすために、家ではスマホを金庫にしまう人もいるようです。

逆に、何らかの行動を習慣化したければ、たとえばベッドの脇にトレーニングウェアを置いて寝れば、朝起きてすぐトレーニングに行くことを習慣化しやすくなるのです。

このように習慣化したい行動のハードルを下げることは、行動の習慣化にはとても有効です。

このタイマーは設定という面倒な手間を省くことで、行動のハードルを下げ勉強やトレーニングを習慣化を助けてくれる効果があるんです。

行動科学の知見に則った素晴らしい機能ですね。

どうやってこのアイディアを出したのか?

ここで大事なのは、それぞれのタイマーが面白いというだけではありません。

マーケティングに関わるのなら、「どうやってこのようなアイディアを生み出したのか?」、それを考えることが大切ですね。

このアイディアは真面目に考えるだけでは生まれません。

顧客や競合を分析して、過去の顧客データを分析して、意見を聞いたりアンケートを取ったりする一般的なビジネスのアプローチでは、このようなアイディアは出ないでしょう。

まず、ゲーム的なスイッチについてはゲームセンターのボタンを真似たものでしょう。

ゲームのボタンと勉強用タイマーを「融合させた」と言っても良いかもしれません。

異なるものを「融合させる」ことは、クリエイティブなアイディアを生み出すために有効なスキルの一つです。

また設定の手間をカットするタイマーはサイコロを真似たものですね。

これを生物学の用語では「擬態」と呼びます。まるでサイコロのように形を似せてあります。

このように何か本来のものとは別のものに色や形を似せることも、クリエイティブなアイディアを生み出すために有効なスキルの一つです。

「進化思考」で大量のエラーを繰り返す

どちらの方法もイノベーションの方法論をまとめた進化思考で紹介されています。

 

ただ、サイコロのような形のタイマーを作ってみたら、「設定の手間がいらない」という思いがけない機能をたまたま発揮してしまったというのが実情ではないでしょうか。

この機能を意図的に作ったのではない可能性があるんです。

進化の過程も一緒ですね。

大量のアイディアが生み出されそのほとんどが消えていくけれど、意図していなくとも偶然、運良く素晴らしいものができてしまうことはあるんです。

売れるヒット商品は意図して100発100中で生み出すことはできません。

仮に一発で当たったとしても、それはその人の能力が高いわけではありません。単に運が良かっただけです。

どんな人でもアイディアを100個出して売れるのはその数%程度でしょう。ヒットの裏には大量の失敗があるんです。

成功するには「融合」や「擬態」などをヒントに大量のアイディアを出してみて、それを市場に出して売れるかどうかテストしてみることです。

成功に裏技はありません。ただ、成功へより早く近づく「ヒント」はあります。

地道な方法ですが成功するまで諦めずに、失敗して、失敗して、失敗して、それでも諦めずに続けることで、きっと売れる商品やサービスを生み出すことができるでしょう。

失敗しても諦めずに成功するまで続けること。

これは10年後も100年後も、そして1万年前も10億年前も、ずっと変わることなく続く成功の大原則なんですね。

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