太刀川英輔さんの「進化思考」は、生物進化の「変異」と「適応」を創造のヒントにする考え方です。
この進化思考を活かすことで、これまでにない商品やサービスのアイディアを生み出しやすくなるのです。
今回はこの進化思考から「変異7:分離」の発想で生み出せる商品の具体例を見ていきます。
「交換」とは別々の要素に分けることですね。
生物の進化でいえば「内蔵」があります。心臓、肝臓、肺など、それぞれが独立した機能を果たせるように進化の過程で分離壁(膜)を発達させたのです。
私たちの社会でいえば、この分離のための「膜」のような道具はたくさんあります。
カプセル、コップ、缶、弁当箱、引き出し、財布、靴、家具、壁、部屋など、日常で使うほとんどのものは膜で包まれています。
あるいは、無料会員と有料会員、家族、会社、国家なども内と外が分離されています。
また膜で内と外を分離するだけでなく、分離した内と外をつなぐ「開口部」のような存在もありますね。ジッパー、ドア、門、改札口などがその例です。
電気のスイッチや迷惑メールのフィルター機能といった概念的な分離もありますし、ザルや茶漉しも必要なものとそうでないものを分離する道具です。
必要なものだけを通し、必要ないものを通さない「開口」も分離のヒントになるのです。
これまで一体だと思っていたものでも分離できるかもしれません。そこから新しい価値が生まれることもあるのです。
この「分離」の発想でこれまでにない商品アイディアを出すことも可能なのです。下で具体例を見ていきますね。
洗顔料とヘアオイル/小分けで分離
suisai(スイサイ)という洗顔料は1回分を小分けにしたところが特徴です。
「小分け」以外の特徴は「酵素入り」や「パウダー状」といったところですが、これら2つの特徴なら他の商品でも見かけます。
しかし一回分を「小分け」にしたことが他にはない可愛い特徴だったため、それがヒットの一因になりました。
メーカー側から見たら、容器を小分けにすることで容器代がより多くかかり販売価格を上げる必要がありますね。でもそれが商品のプレミア感につながります。
逆に消費者側から見たら、一回ごとに容器を開けるため特別感を感じられます。価格も他の洗顔料より高めなので、頑張った自分へのご褒美としてのプチ・プレミアムケアのような感覚があるのです。
メーカーの都合と消費者の感覚、お互いのメリットがうまくマッチしている感じですね。
また、ellips(エリップス)は小分けされたヘアオイルです。
こちらも中身に大きな特徴はありませんが、サプリのような見た目の可愛さが売れる大きな要因の一つです。
ヘアオイルも分離せずそのまま容器に入れても良いものを、あえてカプセルに入れ分離して、サプリに似せて(擬態して)売り出したのです。
分離することで見た目が変わることで売れることもあるのです。
小分けの転用/「分離×編集」で新商品のアイディアを出す
このアイディアを他に転用すれば、1回分をカプセル状にしたクレンジング、美容液、シャンプー、ハンドクリームなどもできそうですね。
あるいは、1日分のサプリセット、1日分のおやつセットを小分けにするのも良いでしょう。
サプリならビタミンCや乳酸菌などを美容や健康など特定の目的に合わせて詰め合わせたり、お菓子なら甘いものと塩辛いものをセットにしても良いですね。
お菓子セットの量を1日分にすれば食べる量を制限でき、食べ過ぎを防ぎたいダイエット中の方にもフィットするかもしれません。
子ども用、職場用、自宅用、健康食品の詰め合わせなど、用途を分けることもできますね。
このように物事を「編集」することによって、これまでにない新しい価値を生み出すことができるのです。「分離」と「編集」を組み合わせれば新商品のアイディアを作りやすくなりますね。
美容の分離/新しい市場を創り出す
女性がスキンケアをする場合、一般的な順序があります。
クレンジング(メイク落とし)→洗顔(汚れ落とし)→化粧水(潤いを与える)→美容液(ハリや潤い全般を与える)→クリーム(潤いにフタをする・保湿する)ですね。
これらをだけでもスキンケアが複数に分離されています。しかし、かつてここからさらに分離することで新しい市場を開くことができたのです。
それが導入美容液(ブースター)の誕生です。
導入美容液は化粧水の前に使います。それによって肌を整えて、化粧水の浸透を助ける働きがあるのです。
このような発想はスキンケア以外にも広げることができますね。
通常のサービスを分離した人気店
たとえばスポーツ、料理、塾などのスクール系ビジネスで、これまで「初心者コース/中級者コース/上級者コース」となっていたとします。
これをさらに分離して、初心者コースの後に「初級者コース」を入れることもできますね。完全な初心者ではないけれど、中級者というほどでもない、という人向けです。
あるいは、特定の技・料理・科目などに絞って指導するオプションを入れるのも分離の発想の一つです。全体を指導するのではなく、強化したいところを全体から分離して教える集中特訓コースです。
ヘアサロンの場合、カットやパーマは置いておき、シャンプーとブローだけを分離したシャンプー&ブローの専門店として人気のお店も良い例ですね。
一般的なサービスから一部を分離することで、専門性が高まり特定のニーズを持ったお客さんが集まりやすくなりますね。
分離は使い方次第でこれまでにない商品やサービスを創り出せる可能性がありますね。