「商品の差別化が難しい」
これはあらゆる商品やサービスにおいて世界的に起きている課題です。技術の進歩やインターネットの広がりによって製品の「機能による差別化」は難しくなっています。
同じような機能の商品が溢れ、売上は見た目の違いやコピー、レビューの多さなどで変わります。売れるかどうかは機能以外の比重が大きいのです。
そんな中で商品の機能を上げようとしたところで、大した差はつきません。それに多少機能が上がったところで売上アップにはつながりません。
ではどうするか?
見た目をよくしたりレビューを増やしたりする方法もありますが、それらは表面的な小手先のテクニックに過ぎません。
もっと本質的に、ユーザーの「価値」につながる売り方を考えることが大切です。
その解決策の一つとなるのが、商品の持つ「意味」を変える売り方です。
商品の機能や見た目を変えなくとも、その商品が持つ「意味」を変えることでユーザーが感じる価値が変わります。
そして競合も変わり売上も変わるのです。
そんな「意味」を変えるマーケティングについて、具体例で見ていきますね。
ロウソクは、なぜ今も売れ続けるのか?
たとえば、LEDや電球がある現代においてロウソクを買う人がいるのはなぜでしょう?
停電になった時の緊急用としてロウソクは必要です。しかし、それ以外の目的でロウソクが使われることがあるのです。
センスの良い雑貨店などにはロウソクが並んでいます。これらは緊急用ではなく、食事のムードを楽しみたいときなどに使うのです。
電灯という当たり前があるからこそ、ロウソクに新しい意味が生まれたのです。
ロウソクの目的を「周囲を照らすこと」から「ムードを演出すること」へとシフトしたのです。
「人が照明を購入する理由」の再発見
北イタリアにアルテミデという照明器具メーカーがあります。
1986年から売れ続けている下のトロメオなどが人気で、ヨーロッパのデザイン賞も多く受賞しています。
このアルテミデは美しい照明をデザインするだけでは十分ではないと考え、競合との新たな差別化を行いました。
それが「メタモルフォシィ」という照明です。
一般的な照明のように天井から吊るすのではなく、舞台照明のように下から空間全体を照らします。
そして自分の気分や状況に応じて部屋全体の色の調整ができるのです。たとえば、眠りにつくのに合わせた弱目の照明や、リラックス、創造、愛などのテーマがあります。
これらは他社との差別化を意識して生まれたのではなく、「製品の意味」を問い直すことで生まれました。
アルテミデは照明について、美しいから買うのではなく、より心地良くなれるから買う、という「人々が照明を買う理由」を再発見したのです。
そのきっかけになったのが自らに行った下の問いです。
「彼女が夜の7時に仕事から帰って来たとき、私たちはどのように彼女を癒すことができるか?
もしユーザーに直接「どんな照明が欲しいか?」という「問い」を発していたら、電球を交換しやすい照明が欲しい、などの予測範囲の答えが返ってきたかもしれません。
それではこれまでの延長線上のありきたりなモノしかできません。
しかし「問い」を変えたことで、これまで気づいていなかった新しい「意味」を見つけ出すことができたのです。
その後もアルテミデは革新的な商品を次々に開発して、世界的に人気な照明機器メーカーになっています。
人は「意味」にお金を払う
商品の「機能」を変えるのではなく、商品が持つ「意味」を変えることで売れているものは他にもあります。
たとえば、以前紹介したアイマスクや入浴剤もその例ですね。
「睡眠投資」というコンセプトで、入浴剤の意味を「温まる」や「疲労回復」から「ぐっすり眠る」へとシフトしたBARTH(バース)は、意味を変えて売れた好例です。
また「目元エステ」というコンセプトで、アイマスクの意味を「睡眠」や「疲労回復」から「美容」へとシフトしたパナソニックの商品も売れています。
また「チョコレート効果」というネーミングで、チョコレートを単なる「お菓子」ではなくポリフェノール豊富な「健康食品」とした商品も意味を変えた例ですね。
あるいは、パソコンなどのブルーライトをカットするメガネの意味は、「ファッション」ではなく「ヘルスケア」です。
一つ数百万円や数千万円する高級時計の意味は、「時間を知る」ことでも「ファッション」でもなく「ステータス」という意味が強いですね。
一般の自転車は「移動すること」や「荷物を運ぶもの」としての意味を持ちますが、ロードバイクやマウンテンバイクは「スポーツ」や「レクリエーション」の意味が強くあります。
このように、一見似たようなモノでもそれが持つ「意味」を変えることで、別商品になりその商品が持つ価値も変わります。
アルテミデの照明が「照らす」から「癒す」へと意味を変えて売れたように、まだまだ見つかっていない、満たされていない意味はあるのです。
さまざまな商品が持つ意味をあらためて考えてみることで、自分が新商品を作るときにきっとヒントになりますね。