バルミューダといえば、革新的な家電メーカーとして国際的にも人気です。
中でもトースターは一番の人気商品で、2万円を超える価格ながら他を圧倒するほど売れています。
その特徴は蒸気と温度調節によって感動の香りと食感を実現することですね。
トースターというモノを売っているのではなく、トースターという「手段」によって叶えられる「おいしいパンを食べられる体験」を売っているのです。
もし商品開発に一般的なマーケティングの考え方を使っていたら、このような商品はできないでしょう。顧客の「不」を理解して、競合をリサーチして、その上で自社の強みを打ち出そうとしてもダメなのです。
では、どう考えるとこのような商品ができるのか?
そのヒントは「アート思考」にあるのです。
これまでの常識を突破して新しい価値を生み出す「考え方」について見ていきますね。
あの日食べたパンを再現したい
バルミューダのトースター開発のきっかけは社内行事のバーベキューでした。その日はあいにくの土砂降りでしたが、社員が炭火で焼いたパンがとてもおいしかったそうです。
そのバーベキューのときに食べた、あのおいしいトーストを再現しようと試行錯誤しましたが、当初はうまくいきませんでした。
そんな中、「土砂降りの雨がパンをおいしくさせたのでは?」という仮説に至り、温度調節や水分調節を行った結果ついに商品を完成させることができたのです。
商品づくりは「自分たちが欲しいかどうか」
バルミューダの商品づくりは「自分たちが欲しいかどうか」を基準に考えます。消費者の意見を取り入れすぎると、結果「普通のモノ」になるのです。
たとえば、「2万円のトースターを買いますか?」と聞いても、高いから買わないという回答がほとんどでしょう。
また他社商品をリサーチしても、5,000円以内のトースターがほとんどです。
トースターは低価格のものが多いですが、消費者は本当にそういうモノが欲しいのか?
店頭に安い商品ばかり並んでいるのは、他社が一般的なマーケティングリサーチばかり重視しているからかもしれません。
そんな中バルミューダのトースターは2万円を超えても売れています。
その一番のポイントは「おいしいパンを食べられる」という体験に価値があるからですね。
ここに「アート思考」が見えるのです。
常識に反しても自分自身で考える
アート思考のポイントの一つは「自分自身を起点にして考えること」です。
トースターについて深く考えたこともない他人に欲しいかどうか聞いてそれに応えるのではなく、自分自身が心の底から本当に欲しいなら作るのです。
99人に否定されても、1人が本気で欲しいのなら作るのです。世間の常識で性能や価格を決めるのではなく、たとえ常識に反しても価値を認める人がいるのなら作るのです。
そもそも、人に意見を聞いたところで表面的な答えしか得られません。今、目の前にないものがあったら欲しいか聞かれても、わからないのが普通です。
でも、言葉には出なくとも「自宅でおいしいトーストを食べてみたい」という潜在的な欲求はあるでしょう。
「インサイト」をつかむアーティストの感性
本人も気づいていない心の奥底の真理を「インサイト」と呼びますが、バルミューダはここをつかむことができたのです。
消費者の何パーセントがこう言ったから、という数字やロジックによる判断をしたのではありません。「おいしいパンを食べたい」という数字にできない感性による判断をしたのです。
自分自身が消費者として心の奥底にある欲求に気づき、それを叶える手段を世の中に送り出せたことがヒットにつながりました。
アーティストも世の中を観察したり、人より感性の高い自分自身の心の奥底に潜り込んで観察したりします。
そのようなアーティストと共通した考え方がバルミューダには見られますね。
アート思考は一般的なマーケティングを超えるイノベーティブな商品づくりのヒントになるかもしれませんね。