以前ニューヨークのオークションで村上隆さんの作品が数千万円で落札され話題になりました。今では世界的に有名なアーティストです。
落札額も驚かれましたが、特に驚かれたのは彼の作品それ自体です。
その作品はそれまで多くの日本人がイメージしていた「値段の高い絵」とはあまりにもかけ離れていたのです。
彼の作品はまるでアニメ画像のようで、美術の教科書などに載っている重々しい西洋絵画などとはまったくの別物です。
なぜ彼の作品は高額で取引されるのでしょうか。
芸術の価値
そもそも芸術の価値とは、その作品が上手かどうかで決まるものではありません。
特に現代アートに関しては技術の高い低いはその価値には影響しません。写真に近いほど優れた絵ではないのです。
芸術家の岡本太郎さんは「今日の芸術」という本の中で”芸術の三原則”について語っています。
それによると、
今日の芸術は
「うまくあってはならない」
「きれいであってはならない」
「心地よくあってはならない」
学校の美術で良い成績が取れる作品とは正反対の価値観です。村上さんの作品も同様で、上手できれいで評価されたわけではないのです。
新コンセプト/スーパーフラット
まず村上さんの作品は突然現れて高く評価されたのではありません。オークション前年の展覧会での成功が影響していたのです。
その前年に村上さんは「スーパーフラット展」という展覧会を、ロサンゼルス、シアトルなどで開催しました。
これは現代の日本のアニメ、マンガ、デザイン、写真などさまざまなフィールドで活躍するアーティストの作品に、 葛飾北斎など少し前の人たちの作品も加えたものです。
そしてこれら全ての平面上の創造が超2次的(スーパーフラット)であり、そのことは文化、風俗、芸術、そして日本社会までも同じだ、という「新しいコンセプト」を提示して見せました。
「スーパーフラット」という新しい概念で現代の日本のアニメ文化などと葛飾北斎などの作品を繋いでみせ、現在のリアルな日本文化を説明したわけです。
現代アートを見る人や売買する人は、常に今までにない「新しい価値観」を待っています。
このようなコンセプトは日本オリジナルのもので、それまで見たことも聞いたこともない、という新鮮さがアメリカで認められたのです。
マーケティングで作品を創り出す
またこのスーパーフラット展の前に、村上さんはコンセプトを受け入れられるための準備をしていました。
世界の美術界のマーケット分析やトレンドの把握、世界の美術界ではどういう主張が受け入れられるのか、どう表現すれば理解してもらえるのか、これらを綿密に分析しました。
アート作品の価値を決定するのは一般市民ではなく、美術界のオークション関係者、アドバイザー、コレクター、キュレーターなどといった人たちです。
アートの価値を決定するこれらの人たちが何を考えているのか、何を求めているのか、そのニーズやトレンドを把握してそれに徹底的に合わせたわけです。
市場分析して顧客に求められる作品を創り出す、まさにマーケティングそのものです。
作品だけが作品ではない
作品だけが作品ではないのです。
「作品それ自体」、「斬新なコンセプト」、「美術界のトレンドやニーズへの合致」、「わかりやすい伝達」。
そしてそれらを生み出した「村上隆という人物」、これらがすべて合わさった「文脈」が大きな価値を形成しているわけです。
作品の価値 = 作品それ自体の価値ではなく、作品の価値 = 作品それ自体の価値 + 文脈の価値ということです。
作品自体の魅力・価値はもちろんあります。
しかし作品自体の価値は「文脈」の価値に比べたら10分の1にも満たないでしょう。だから同じような作品を作っても数万円で売れる人と数千万円で売れる人の違いが生まれるわけです。
その「文脈」が違うのです。
作品自体の良し悪しではない
価値の伝達まで含めた文脈が優れていないと、高い評価は得られません。
たとえ優れたコンセプトの作品を作ったとしても、その時代の美術界のトレンドに合っていなかったり価値の伝達がうまくいかなかったりすると、「認められるのは死後になる」なんてことが起こるわけです。
「ニーズやトレンドに合致した斬新なコンセプトをわかりやすく伝えた」という優れた「文脈」の価値こそが村上隆さんを世界的アーティストへと引き上げたのであって、単に作品単体が良い悪いという話ではないわけです。
芸術の価値って面白いですね。