「進化思考」で売れる商品を考える/変異2:擬態-欲しい状況を真似してみる

「進化思考」で売れる商品を考える/変異2:擬態-欲しい状況を真似してみる

太刀川英輔さんの「進化思考」は、生物進化の「変異」と「適応」を創造のヒントにする考え方です。

この進化思考を活かすことで、これまでにない商品やサービスのアイディアを生み出しやすくなるのです。

今回はこの進化思考から「変異2:擬態」の発想で生み出せる商品の具体例を見ていきます。

 

「擬態」とは見た目を別のものに似せることですね。生物でいえば、花や葉に似せて身を隠す虫や、目のような模様を羽に表した蝶などがいます。

出典:Goods Press

 

この「擬態」の発想でこれまでにない商品アイディアを出すことも可能なのです。下で具体例を見ていきますね。

■タイマー/サイコロの擬態

このタイマーはAmazonで最も売れているタイマーの一つです。上にした数字が自動でセットされるので、手動セットの手間をカットすることができるのです。

スタイリッシュな見た目も売れる要因の一つかもしれません。

でも、どうやってこのようなタイマーを作ることができたのか?企画者の思考を逆算してみると「擬態」が浮かび上がります。

これはサイコロをに似せたタイマーですね。

形をサイコロに似せることで、ボタンを押すタイマーでは実現できなかった「置くだけセット」という新しい機能を獲得することができました。

もちろん、タイマーをサイコロに似せてみよう、といきなり思いついたのではないでしょう。身の回りにあるものを見渡してみて、「もしこれがタイマーだったら」といくつもいくつも想像を繰り返したのかもしれません。

すると、偶然サイコロに行き着いた時にこのアイディアへとつながったのかもしれません。

このように想像すれば、仮にサイコロでなくとも、この企画者本人でなくとも、他の人でも独創的なアイディアは実現可能だということです。

すぐには実用的なものができなくとも諦めずに、部屋の中や街の中を見渡しながら、数十通り、数百通りも続けると、いずれ革新的なアイディアにたどり着く可能性があるでしょう。

「擬態」はそれほどパワフルな思考法の一つなのです。

■目覚まし時計/太陽の擬態

目覚まし時計の中で最近特に売れているのは、太陽に似せた時計です。

音で起こす機能もありますが、それよりも光で起こす機能とデザインが合わさってヒット商品になりました。

この目覚ましが特に喜ばれるのは不眠で悩む人ですね。

光は体内時計を整え、眠りのリズムを習得させ、睡眠の質を改善させることもできます。光で起こす目覚ましは不眠の人にピッタリなのです。

ただ朝起きたいだけの人にとっては、光で起こされようが音で起こされようがそれほど大きくは変わりません。デザインの面白さだけでも買ってくれるかもしれません。

しかし、不眠に悩んでいる人は光で起こす目覚ましを積極的に「選ぶ理由」があるのです。

この「選ばれる必然」を作ることこそ、マーケティング最大の役割ですね。

進化思考の著者である太刀川英輔さんがデザインしたムーンライトも、他のライトにはなかった「月の擬態」のライトです。

他では手に入らない価値があるからこそ、ヒットして真似される商品になりました。

■リラックスグッズ/石の擬態

 ston(ストン)という商品は、香りを吸うことで「一服」や「一休み」するためのグッズです。

 

「深呼吸のアップデート」がこのストンのコンセプトです。

頑張りたい時のミント落ち着きたい時のココナッツの2つの香りがあって、それぞれの場面ごとに気分を変えるのに役立ちます。

ストンは見た目の通り「石の擬態」で、そのデザインが多くの人の心に引っかかりヒットしました。

人が最も落ち着けるのは、森や高原、河原など自然の環境だという仮説のものと、限りなく自然の石に近い造形を追求した。ー太刀川英輔 進化思考より

 

もし同じ機能でも、形が石ではなくペンやマグカップなどに似ていた場合、それほどヒットしなかったかもしれません。

人は「機能だけ」が欲しいわけではないのです。

それを使う自分のイメージ、部屋やオフィスに置いたイメージ、自分自身がどう感じるか、人からどう見られるか、そのモノから何が連想されるのか、そこまで含めて広く商品を見ています。

擬態するにも、何に似せるのか。それによって売上に雲泥の差がつくでしょう。

諦めずに数十通り、数百通りも想像を続けると、いずれ革新的で人の心をつかむアイディアにたどり着く可能性が高まりますね。

■着圧レギンス/パジャマの擬態

着圧レギンスは、むくみ解消やヒップアップ、足の細魅せなどを目的としたタイツです。

朝の足のむくみを解消したい人は通常は夜パジャマの下にはきますが、パジャマと一体化したものも人気です。

 

これはパジャマに似せたレギンス、つまり、パジャマの擬態というわけです。

レギンスをパジャマに似せることでそのままパジャマとして利用できるので、レギンスとパジャマを二重にはく手間を省くことができますね。

ただ、レギンスだとしたらジャージのような見た目でも良いですが、これがパジャマだとしたらもっと可愛いものが欲しいものです。

それならば、デザインで突き抜け可愛いレギンスにすれば良いのです。

上は通常のパジャマ、下は着圧レギンスにして、上下のデザインを合わせます。

 

他のレギンスと勝負するのではなく、他のパジャマと勝負するのです。競合をレギンスからパジャマへとシフトするのです。

「かわいい着圧レギンス」として見せるのではなく、「着圧できるパジャマ」として、見せ方を変えるのです。

レギンスだからといって、レギンス同士で勝負する必要はありません。

競合を変えることで競争を避けるのです。「競争するな!」というのが最強の競争戦略ですね。

■炊飯器/お弁当箱の擬態

下の画像はただのお弁当箱に見えますが、実は「弁当箱型の炊飯器です。

ご飯を炊くと一人では一度に食べきれず冷凍するのがめんどくさい。それに、炊飯器からお弁当箱にご飯を移すのもめんどくさいし、洗い物も2つになってめんどくさい。

そんな「不」を解決する商品です。

最短15分ほどで炊けるので、職場やピクニックなど外出先でも炊き立てを食べられます。

さらにご飯以外の調理もできにスープジャーにもなるので、持ち物を減らしたいミニマリストにも人気ですね。

■シャンプー/ナイトキャップの擬態

YOLUというシャンプーは、「うるツヤ髪を、夜仕込む」がコンセプトです。

夜シャンプーをして乾かした直後は髪がきれいなのに、朝起きるとパサパサになる。

原因は睡眠中の「摩擦」です。髪と枕などが擦れあって、髪がダメージを受けるのです。

そこで、シャンプーの成分が髪を超密着エッセンスでコーティングして、睡眠中のダメージから髪を守ります。

このコーティングのことをナイトキャップと表現しています。

 

これはいわば、シャンプーの機能をナイトキャップに似せた擬態です。形をナイトキャップに似せたのではなく、機能をナイトキャップに例えた高度な擬態なのです。

この「例え」で機能をイメージしやすくなり、売上アップにつながりました。

 

私自身、化粧品や健康食品のD2Cに携わっていますが、シャンプーやスキンケア商品などの化粧品で機能の差別化はほぼ不可能です。

機能は薬機法に従わなければならないため、他との違いは出せません。差別化は機能ではなくコンセプト勝負です。

YOLUのシャンプーは、ユニークなコンセプトによるアイディアがヒットにつながる例ですね。

■コンピュータ/「電話」「時計」の擬態

スマホはかなり浸透しているので、初めからこの形のまま生まれたように見えるでしょう。一見何かの擬態には見えませんが、これはコンピュータを電話に似せた擬態です。

中身はコンピュータであるにも関わらずあえて電話機能を持たせ、電話(Phone)という名前を付け、これは新しい電話なのだと定義したことで、ヒット商品の枠を超えた歴史的イノベーションになりました。

これは天才的な擬態です。

そしてスマートウォッチも一緒ですね。これはコンピュータを時計に似せた擬態です。

スマホの機能を一部抜き出して形を時計に似せたのです。これは新しい時計なのだ、と定義したことで浸透率が上がりました。

さらにスマホにはなかった「身に着ける」という機能のおかげで、フィットネスや睡眠の計測など特定の要素を強めることができました。

 

このように擬態が本当にうまくいくと、そのモノは違和感がなくなり生活の一部に溶け込みます。

下のようなハムスターを真似たPCマウス青空を取り入れた傘も擬態の一種ですが、違和感が残っています。

試したこと全てがうまくいくことはありません。諦めずに数十通り、数百通りの擬態を試してみると、素晴らしいアイディアにたどり着くかもしれないですね。