太刀川英輔さんの「進化思考」は、生物進化の「変異」と「適応」を創造のヒントにする考え方です。
この進化思考を活かすことで、これまでにない商品やサービスのアイディアを生み出しやすくなるのです。
今回はこの進化思考から「変異5:移動」の発想で生み出せる商品の具体例を見ていきます。
「移動」とは、場所を変えることで起こる変化です。
生物の進化でいえば、森に住んでいた猿が草原へと移動してヒトに変化したのがいい例ですね。
またモノでいえば、床掃除用のブラシを口に入れられるようにした「歯ブラシ」や、壁掛け時計を腕につけられるようにした「腕時計」、大人の職業を子どもに体験させるようにした「キッザニア」も転移の例です。
この「移動」の発想でこれまでにない商品アイディアを出すことが可能なのです。下で具体例を見ていきますね。
目次
イヤホンを転移した「ノイズキャンセリング耳せん」
ノイズキャンセリングイヤホンの技術を「耳せんに転用」した商品です。
内蔵された小型マイクが周囲の騒音を打ち消してくれます。
一般的な耳せんよりも遮音効果が高いのに、着信音や呼びかけなど必要な生活音はきちんと聞こえる仕組みです。
ノイズキャンセリングイヤホンであれば、音楽に集中するために呼びかけなどの生活音もカットします。しかし、必要な生活音はあえて聞こえるようにしていることろに独自性がありますね。
温感機能を転移した「ホット系商品」
電気ストーブ、こたつ、電気毛布など電熱技術を「アイマスクに転用」した商品です。
「遮光」と「保温」を同時に行えるので仕事や勉強などの疲れ目の改善に効果的です。
目の疲れは集中力を落とすだけでなく、メンタルを含めた全身の疲れにつながります。その改善に目を温めることが有効ですが、意外と面倒が多いのです。
でも、ホットアイマスクなら使い捨ての「めぐリズム」と違い何度も使えますし、タオルのようにレンジなどで温める必要もないため手間もカットしてくれます。
外出先でも手軽に使えるので仕事のパフォーマンスアップにも使えますね。
さらに、湯たんぽやカイロの仕組みを「肩・腰」用に転移した商品も人気です。
どこにでも使える商品ではなく、特定の部位に使い道を限定することでより高い効果を発揮することができるのです。
特定の悩みを持つ人には、特定の悩み専用があると喜んでもらえますね。
洗濯洗剤を転用した「マスク専用洗剤」
洗濯洗剤をマスク専用にすることで、洗濯洗剤の「不」を取り除いた商品です。
わざわざ洗剤を計量する手間を省いて1プッシュでOKな量にしてあります。さらに、余計な泡立ちが少なくすすぎが簡単で、色付きマスクの色落ちを防ぐために漂白成分は不使用です。
洗って何度も使えるマスクが普及したからこそ、このような商品の需要が拡大したのです。時代の波にうまく乗った商品ですね。
使用部位を転移した「専用化粧品」
中身がほぼ同じ化粧品でも部位を変えることで違った見せ方ができるのです。
たとえば、保湿クリームをかかと専用にした「かかとつるつるクリーム」や、ニキビ用クリームをアゴ専用にした「アゴニキビクリーム」などがありますね。
このかかとクリームの成分はハンドクリームとほぼ一緒です。でも、そこに「かかと」という名前を付け、ハンドクリームより容量を増やすことでかかと専用のように見せることができています。
マーケティングは実際のものがどうかと同時に、その「見せ方」が大事です。同じものでも「見せ方」を変えるだけでヒットするケースは多いのです。
また、入浴剤を足専用にした「足湯入浴剤」も人気です。
この足湯入浴剤は足が蒸れてニオイが気になる人にもぴったりで、足の洗浄成分と香りによる消臭効果も謳っています。
「見せ方」だけでなく成分も足専用に合わせて変えていますね。
他の商品でもそうですが、「◯◯専用」にすることで専用以外とどのような違いを作るのかがポイントですね。
「見せ方」を変えるだけで売れるケースもありますが、できれば専用にした場合に生じる「不」の解決までできると良いのです。
専用以外の商品では解決できない「不」を解決できるのなら、専用商品はさらにヒットしやすくなりますね。
使用部位を転移した「菌活と除菌」
ロイテリというお口のサプリは、乳酸菌で口内ケアする商品です。これは腸内環境の改善に使われる乳酸菌を口内環境の改善へと転移した例ですね。
実際のところ口内環境の改善効果は不明ですが、配合された乳酸菌の種類に相性の良い人は腸内環境改善に役立つでしょう。
腸内の乳酸菌にはさまざまな種類があって、人によってどの乳酸菌サプリが合うかが違うのです。それと同じく、口内の乳酸菌も種類が多く合わない人もいるでしょう。
しかし、ロイテリは「転移」の発想でヒットを生み出した良い例ですね。
また、歯ブラシ用の除菌機はコロナで売れた商品の一つです。手や空気などの除菌グッズを歯ブラシに転移した例ですね。
コロナウイルスはウイルスで細菌ではないので、除菌の効果はありません。それでも、殺菌・除菌の需要増が追い風になりましたね。
女性用に転移した「カラダづくり」
プロテインやスポーツジムは、以前は筋肉をつけたい男性向けだけでした。しかし、今では痩せて美しくなりたい女性用があるのが当たり前になりましたね。
「女性だけの30分フィトネス」をコンセプトにしたカーブスは、男女兼用だったスポーツジムを女性専用に転移してヒットした例ですね。
その後にヒットし出したのが女性用のプロテインです。
プロテインは女性用にするために、女性ホルモンのイメージがある大豆を使ったり、オメガ3や美容のイメージがあるフィッシュコラーゲンを使ったりしていますね。
「美しく引き締める」というコンセプトに合わせて、美容を意識している人ならピンとくるような成分を配合して男性用との違いを出しています。
一時期から「ダイエットにはプロテインが有効だ」という専門家の意見が女性の間で広がって、それからプロテインが流行るようになりました。
プロテインを飲んでも痩せませんが、プロテイン(タンパク質)は空腹を感じにくくして食事量を減らしてくれます。
ただ、本来は粉末にした加工食品であるプロテインを飲む必要はありません。タンパク質を摂るなら肉、魚、卵、納豆や豆腐などで十分です。
それでもダイエットにはタンパク質(プロテイン)を摂るべきだという意見は、栄養に詳しくなくダイエットが上手でない人には、とてもわかりやすいメッセージなんですね。
蓄音機の形状を転移した「未来スピーカー」
未来スピーカーというスピーカーは、蓄音機の湾曲した形状をスピーカーに転移した商品です。
音の出る面を蓄音機のように湾曲させることで音の波形が変わって、難聴など耳が聞こえにくい人でも音量を上げず聞こえるようになるのです。
これまでのスピーカーの常識を覆したこの技術が注目され、多くの人たちが利用する空港や駅などでも活用されるようになっています。TVでも話題になりましたね。
このスピーカーがさらに広まれば、多くの人たちの生活の質を向上させることに役立ちます。
世の中の「不」を解決して本当に世界を変える素晴らしい商品ですね。
お笑いスキルを教育に転移した「中田敦彦のYouTube大学」
中田敦彦さんのYouTube大学は、中田さんがお笑いで身につけた面白く話すトークスキルをYouTubeでの教育番組づくりに転移した例ですね。
その圧倒的なトークスキルと、歴史、ビジネス、文学など幅広いテーマの面白さが組み合わさって、2021年12月1日現在でチャンネル登録者数は419万人にもなっています。
転職でも、前職で身につけたスキルを転移できると成果を上げやすくなりますが、中田さんも強みがうまくハマって成功した例ですね。
生物進化を創造に転移した「進化思考」
この記事のテーマでもある「進化思考」は生物進化の仕組みを創造の方法に転移した例ですね。
生物は38億年前に地球上に誕生して、単細胞生物から多細胞生物へ、さらに魚類、爬虫類、哺乳類などさまざまに進化を重ねてきました。
生物はただ形が変わっただけでなく、より複雑な形へと変化しています。
生物の細胞一つとっても、分子レベルで正確に機能する非常に高度に組み立てられた仕組みは、とても人間の力で作ることは不可能です。
自然の力によるその圧倒的な創造性は人間の力をはるかに上回り”神業”とでもいうべきものです。
他の人や歴史の偉人から創造性を学ぶより、生物の進化から創造性を学んだ方がより大きな力を発揮してくれるでしょう。
この世界の課題を解決して世界をもっとおもしろくするたくさんのアイディアが、進化思考で生み出せるかもしれませんね。