太刀川英輔さんの「進化思考」は、生物進化の「変異」と「適応」を創造のヒントにする考え方です。
この進化思考を活かすことで、これまでにない商品やサービスのアイディアを生み出しやすくなるのです。
今回はこの進化思考から「変異9:融合」の発想で生み出せる商品の具体例を見ていきます。
「融合」とは他のものと組み合わせることですね
生物でいえば、ミトコンドリアがそうですね。ミトコンドリアは細胞がエネルギーを生み出す器官で、人間を含めた真核生物の細胞に含まれています。
このミトコンドリアですが、実はかつては私たちとは違う古代生物の一種でした。それが20億年以上前に真核生物と共生するようになり、細胞の中に融合したのです。
また、私たちの腸内や皮膚に棲む細菌たちも違う種類の生物です。腸には100兆個ほどの腸内細菌がおり、その働きで食べ物を消化吸収したりできるのです。
そして、2020年にノーベル化学賞を受賞の元になったCRISPER-Cas9(クリスパー・キャスナイン)という技術を使うと、遺伝子を編集(切り貼り)することが可能です。
ある生物の遺伝子に別の生物の遺伝子を組み込む(融合)することができるので、ホタルの遺伝子を持った光るシルクとしてアート作品を作ることもできるのです。
この「融合」の発想でこれまでにない商品アイディアを出すことも可能です。下で具体例を見ていきますね。
目次
新しい価値をつくる融合家電
目玉焼きも焼けるトースターです。一人暮らしでスペースを取りたくない人、朝食作りの時短をしたい人などに良いですね。
大ヒットはしなくとも、手間やスペースを省きたい人たちの間で一定のニーズはあるのです。
このトースターは単純な融合ですが、見た目にはすぐわからない融合もあります。
たとえば下の食器洗い乾燥機は「水を貯めるタンク+食器洗い機+乾燥機」の融合です。
吸水ボトルで中に水を入れて使えるので、工事不要で設置でき吸水ホースもなくキッチン周りがすっきりします。
そして、「包丁+モーター」を融合した電動包丁もありますね。
ケーキやパンなどやわらかいものを切る場合、通常の包丁だと切り口がギザギザになったり歪んだりすることが多いでしょう。
でもこの電動包丁ならきれいにカットできるので料理の楽しみも広げてくれます。
さらに下の「アイロンいら〜ず」は「乾燥機+エアバッグ」を融合した商品です。
洗濯後のシャツやジーンズなどをエアバッグに巻いて乾かすことで、シワが伸びてアイロン不要になるのです。
見た目からして家に置くのをためらうかもしれませんが、アイロンの手間カットや時短には役立ちますね。
さらに、「進化思考_変異2:擬態」でも紹介した下の画像商品は、融合の商品として見ることもできますね。
ただのお弁当箱に見えますが、実は「弁当箱型の炊飯器」です。
ご飯を炊くと一人では一度に食べきれず冷凍するのがめんどくさい。それに、炊飯器からお弁当箱にご飯を移すのもめんどくさいし、洗い物も2つになってめんどくさい。
そんな「不」を解決する商品です。
最短15分ほどで炊けるので、職場やピクニックなど外出先でも炊き立てを食べられます。
さらにご飯以外の調理もできにスープジャーにもなるので、持ち物を減らしたいミニマリストにも人気ですね。
めぐりズム/アイマスク+カイロ
季節を問わず売れ続けるめぐりズムは「アイマスク+カイロ」の融合です。組み合わせはシンプルですが、ここから得られる効果はとても大きなものがありますね。
アイマスクで目を覆うことで光が遮られるので、必然的に目を閉じて休むことになりますね。目を閉じるだけでも副交感神経が活発になって、目と脳が休まります。
さらにカイロの温感をプラスすることで目の周りの血行が良くなって、さらに目の疲れが癒やされます。目の疲れは脳の疲れと直結しているので、自然と頭もスッキリさせることができますね。
光を遮って温めるという単純な仕組みですが、日常的に目を酷使する私たちの生活にはぴったりの商品なのです。
「目的」で「参照価格」が変わる
さらに最近では使い捨てではなくUSB充電式もあり、目元を温めることを毎日の習慣として取り入れやすくなっています。
下のアイマスクの定価は約2,500円ほどですね。
スチーム機能、アロマ機能、マッサージ機能、音楽機能まで追加して1万円を超える高機能製品もあり、ますます人気が出ていますね。
下のアイマスクの定価は約23,000円ほどですね。
上のアイマスクの10倍近い価格です。機能はもちろん違いますが、それ以上に使う「目的」が違うのです。
目的を「目の疲れを癒す」ことに向けるのならめぐりズムでも十分ですが、スチームなどを含めて「目元美容」という目的に変換するとさらに価格を高くすることができるのです。
製品自体は変わらなくとも「目的」を変えることで消費者が感じる価値が変わるのです。これこそがマーケティングの面白いポイントです。
目の疲れを癒すことが「目的」なら、競合はめぐりズムなどとなり数百円や1000円くらいが妥当です。
しかし目元を美しく若く見えるようにすることが「目的」なら、競合は美顔器やアイクリームなどとなり1万円を超えても支払うのです。
それぞれで消費者が無意識に参照している競合が変わっているので、参照価格、妥当だと感じる価格が変わるんですね。
同じものでも消費者により価値を感じて高い価格でも買ってもらうために、「どう見せるか」はマーケターにとって非常に大事なポイントなのです。
健康食品/融合の実験場
健康食品は年々種類が増えてきてその市場は巨大です。
ダイエット(生姜、酵素、炭、MCTオイルなど)、血液サラサラ(DHAなど)、目に良い(ブルーベリー、ルテインなど)、美肌(ビタミンC、コラーゲンなど)、眠りや寝起きを良くする(グリシン、テアニンなど)、腸内環境を整える(乳酸菌など)、寿命を延ばす(NMN)などがありますね。
こんな健康食品ですが、さまざまな成分の「融合の実験場」とも言えるのです。
たとえば、2020年9月時点で販売数4億杯を突破した世田谷自然食品の乳酸菌の入った青汁は、そのまま「青汁+乳酸菌」の融合です。
売り方のうまさもありますが、健康に良さそうな青汁に乳酸菌を加えることで、かつては他の青汁よりさらに健康に良さそうとなって急速に売り上げを伸ばしました。
そして「腸内環境の改善」が健康や美容に良いという認識が世間に広まってから、乳酸菌系の商品が増えました。
特に、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌(プレバイオティクス)と、オリゴ糖や食物繊維などの善玉菌のエネルギー(プロバイオティクス)を一緒にとる(シンバイオティクス)と、腸内環境の改善により大きな効果を発揮します。
それを目指したのが「乳酸菌+オリゴ糖」などを融合させたサプリですね。
乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌に、オリゴ糖やファイバー(食物繊維)などを組み合わせて効果を高めようとしています。
そして他の記事でも紹介したC.COFFEE(シーコーヒー)は、ダイエットに良さそうな成分を融合した商品です。
✔︎ 余分栄養素など吸着する炭
✔︎ コーヒー自体に含まれ痩せる効果のあるクロロゲン酸
✔︎ エネルギー分解を早くするMCTオイル
✔︎ 腸内環境を整える乳酸菌(プレバイオティクス)
✔︎ 腸内環境を整える軟消化性デキストリン(食物繊維/プロバイオティクス)
✔︎ 代謝を助けるビタミンD
これらの成分を融合することでダイエット効果を目指しています。
ダイエットや腸内環境の改善など特定の効果(目的)のために異なる成分を融合させる考え方は、健康食品から学べますね。
スキンケア商品/融合で新商品を差別化する
特定の効果(目的)のために異なる成分を融合させる方法は、スキンケア商品も一緒です。
以前、別の記事で書いたクレンジングはどれも「毛穴ケア(目的)」を訴求した商品です。その同じ訴求に対してそれぞれ「別の手段」で売れる商品を作っています。
たとえば、温感で汚れを浮かせて落とす「ホットクレンジング」
炭酸泡で汚れを浮かせて落とす「炭酸クレンジング」
炭で汚れを吸着して落とす「炭クレンジング」などがあります。
この他にも、洗顔料では「酵素」や「泥(クレイ)」などを使ったものもあります。これら「温感/炭酸泡/炭/酵素/泥」を融合させると新しい手段のクレンジングができますね。
新商品を「融合」で考える
たとえば「温感×酵素」もその一つです。酵素は体温近くで活発に働くので温感との相性は良いですね。
また「温感×泥」なら、まるで泥エステのような感覚がウケるかもしれません。
あるいは他の成分も含めて、「炭酸泡×ビタミンC」なら柑橘系の炭酸飲料のようなイメージになります。炭酸泡で汚れを落とし、ビタミンCで美肌を作る訴求が合いそうです。
または、入浴剤のBARTH(バース)のように「炭酸泡×温感」なら、バブルバスのようなイメージでリラックス訴求もできそうですね。
参考記事↓
他にも意外なものを組み合わせればさらに面白い商品ができそうです。
たとえば健康食品からの転用で、乳酸菌やコーヒーが良いのならクレンジングや洗顔料に融合しても良いですね。
「乳酸菌×コーヒー×酵素」など、組み合わせを変えればいろんな新しい商品を考えられます。
「融合」は非常にパワフルな発想法です。様々な組み合わせを考えてみると売れる新商品づくりに役立ちますね。
参考記事↓