太刀川英輔さんの「進化思考」は、生物進化の「変異」と「適応」を創造のヒントにする考え方です。
この進化思考を活かすことで、これまでにない商品やサービスのアイディアを生み出しやすくなるのです。
今回はこの進化思考から「変異6:交換」の発想で生み出せる商品の具体例を見ていきます。
「交換」とは違うものに入れ替えることですね。
生物でいえばヤドカリの貝などがあります。体が成長するにつれて交換していくのです。
あるいは、ボールペンの替え芯やインクの交換カートリッジも交換ですし、電球や蛍光灯の代わりになるLED、印鑑の代わりになる電子署名も交換です。
さらに、切手を交換して配送サービスを買ったり、切符を買って電車に乗るのも、保険を買って安心を得るのも交換の一種です。
この「交換」の発想でこれまでにない商品アイディアを出すことも可能なのです。下で具体例を見ていきますね。
目次
モノの交換/たい焼きの中身を変えてみる
たとえば、おにぎりの外側は同じで中身の具を変えるのも交換の一種です。
これと同じ発想で、たい焼きの中身を通常のあんこから、クリーム、チョコレートなどに交換することもできますね。
同じお菓子でも中にソフトクリームやアップルパイを詰めると、これまでにない新しいスイーツが完成します。
または、形をシーラカンスに交換して、中身をホットバナナに交換して、パンケーキの一種としてカフェで出すこともできますね。
あるいは、中身を肉団子、きんぴら、ハムエッグなどに交換してサンドイッチとして見せることもできますし、キャベツや豚肉を入れてお好み焼きにすることもできますね。。
中身をケチャップご飯に、外側を卵焼きに交換して、オムライスにすることだってできるのです。
ここには載せていませんが、たとえば中身に焼きそばを入れるのも良いかもしれませんし、タコを入れて焼くのも面白いかもしれません。
見た目のインパクトが強ければSNSでシェアされます。すると、お店が宣伝しなくともお客さんが勝手に宣伝して集客を手伝ってくれるのです。
たい焼きとはこういうものだ、という固定観念はいりません。過去や他人の常識にとらわれる必要はないのです。
「交換」の発想でアイディアを出せば今までにないものを作れる可能性がありますね。
同じ目的に対する「手段」の交換
同じ目的を達成するために「手段」は一つである必要はありません。手段を交換することで新しいアイディアを生み出せるのです。
たとえば「音楽を聴く」という目的に対する手段は、レコード、カセットテープ、CD、MD、DVD、ブルーレイ、ダウンロード、と進化しました。
得られるものがほぼ同じ場合、「Aの代わりにBを使う」というのも交換の発想の一つです。
紙の本の代わりに電子書籍、紙タバコの代わりに電子タバコ、紙の切符の代わりにSuica、蛍光灯の代わりにLED、ガソリン車の代わりに電気自動車。
これらは全て「手段」を交換した例ですね。これと同じ発想で新しい商品アイディアを作る事ができるのです。
「朝専用」缶コーヒー/場面を特定した交換
朝飲む缶コーヒーを「朝専用」缶コーヒーにするのも交換です。
「朝、頭をスッキリしたい」という目的に対して、通常の缶コーヒーという手段を使っていた人に対して、別の新しい手段を提供することができたのです。
缶コーヒーという商品自体は新しいものではありません。しかし、「朝専用」という見せ方が新しい価値を生んだのです。
朝の頭をスッキリさせる目的のために、これまでになかった新しい手段が生まれた(ように見えた)のです。
この新しい手段を使えば、「朝、頭をスッキリさせる」という目的をこれまでの手段より良く満たせるように見えるから売れるのです。
YOLU/ナイトキャップの機能をシャンプーに交換
以前「進化思考の変異2:擬態」でも書いたYOLUというシャンプーは、夜使うシャンプーをYOLUに交換するものです。
これだけだとただのブランドスイッチに見えますが、YOLUにはもう一つの交換があるのです。
シャンプーの成分が髪をコーティングして、睡眠中の摩擦ダメージなどから髪を守ります。
このコーティングのことをナイトキャップと表現しているのです。
これはいわば、ナイトキャップの持つ「髪を守る機能」をシャンプーで代用・交換した商品なのです。
「寝ている間の髪を守る」という目的に対して、これまでのナイトキャップという手段からシャンプーという別の手段に交換したのです。
これは非常に高度な交換の例ですね。
シャンプーという同じ手段同士で交換を考えてもこのようなアイディアは出てきません。同じ目的同士で交換を考えると、このようなアイディアを出せる可能性が高まるのです。
進化思考の「擬態」の発想からもここへたどり着けるかも知れませんが、「交換」の発想でもたどり着けるかもしれません。
同じ目的から考えることで、他の人には見えていない別の視点を持つ事ができますね。
サボリーノ/朝のセットと一括交換
朝用マスクサボリーノは 「洗顔+スキンケア+化粧下地」をシート1枚に交換した商品です。
このシート1枚使うだけで面倒な朝の準備を短縮できる(サボれる)ので、そんな女性に人気なんです。
「キレイでいたい、そのためには手間が必要」でも「本音ではサボりたい」というインサイトを突いた商品ですね。
交換の発想、インサイトを突いた訴求、サボリーノというネーミングが組み合わさって大ヒットしました。
サボリーノを真似した商品も出ましたが、このネーミングの強さには勝てません。複数の要素が一体となって競合を寄せ付けない障壁になっているんですね。
クレンジング/毛穴ケアの手段を交換
以前、別の記事で書いたクレンジングは、どれも「毛穴ケア」を訴求した商品です。その同じ訴求に対して「別の手段」に交換することで売れる商品を作れているのです。
たとえば、温感で汚れを浮かせて落とす「ホットクレンジング」
炭酸泡で汚れを浮かせて落とす「炭酸クレンジング」
炭で汚れを吸着して落とす「炭クレンジング」などがあります。
それぞれ「温感」「炭酸泡」「炭」という別の「手段」を使っていますが、目指すところはどれも同じ毛穴の汚れを落とすことです。
マイケルポーターが競争戦略でいうところの「ライバルと同じような活動を違ったやり方で行うこと」をしているわけです。
進化思考で言えば「同じ目的に対する手段を交換している」わけです。
交換するものがこれまでにない新しい手段で、消費者に受け入れられるものであれば、次のヒット商品をつくることができますね。
置き換え食品/食事の交換
置き換えダイエットは通常の食事をダイエット食品に交換するダイエット法です。朝食や昼食をスムージーに置き換えたりしますね。
スムージーでは物足りなければ、栄養のありそうな雑炊に置き換えるパターンもあります。
最近ではコーヒーに置き換えるc.coffeeがヒットしました。
あるいは、カロリーメイトやウィダーインゼリーも栄養バランスを考えられていて食事の置き換えとして使われることがありますね。
カロリーメイトなどは食事を補助するものですが、完全に主食と置き換える食品も出ています。
パンや麺の代わりとして、必要な栄養を含んだベースブレッドやベースパスタは、ベンチャー企業が開発して次第に伸びてきましたね。
パンやパスタはいろいろなアレンジができるので、毎日取り入れやすいのも人気の理由の一つでしょう。
さらに、牛肉の代わりの大豆を使った大豆バーガーも交換です。
牛が出すメタンは温暖化を加速するので、温暖化を抑えて環境を守るためにも牛肉を減らそうとしているのです。
食事の交換(置き換え)は、ダイエット、健康維持、環境保護など、いろんな面で多くの事例がありますね。
バンドルカード/クレジットカードをデジタルに交換
バンドルカード(VANDLE CARD)は、クレジットカードをデジタル情報に交換したアプリです。
スマホにアプリをダウンロードしたら、カード審査不要、スマホ上ですぐに作れて、チャージして使えます。ネットショッピングなどに便利ですね。
リアルカードも作れば街中の店舗でも使えるので、これまでクレジットカードを作れなかった人にも利用者が増えているのです。
カードは情報さえあれば物理的な実体は必ずしも必要ないため、今後も情報としてのカードは増えていくかもしれないですね。
Qrio Lock/カギを不要にするカギ交換
Qrio Lock(キュリオ・ロック)は、ドアノブのカギ部分に取り付けて一般的なカギと交換するツールです。
Qrio Lockを取り付ければ物理的なカギはいらなくなり、スマホやカードなどでカギを開けられるようになるのです。
オートロック機能がついていたり、カギの開閉履歴をスマホで確認できたりするのも可能です。今後はオフィスを含めさらに普及していきそうですね。
スマートプラグ/コンセントを交換してスマート化
通常のコンセントをスマートプラグに交換すれば、Amazonのアレクサなどを通して音声で家電の操作が可能です。
プラグにつながった家電を音声でスイッチON/OFFできるので、生活の便利さが上がるのです。身体が不自由で動くのが大変な人にも良いですね。
スマホがコントローラーになって外出先からでもスイッチ操作できるので、帰宅までに暖房をつけたり自宅の家電の状況を確認することも可能です。
今までアナログだったものをデジタルに交換するアイディアは、まだ始まったばかりで市場は成長途中です。
この市場は今後さらに成長するので、新しいアイディアで参入するのも面白いかもしれないですね。
仮想通貨/お金をデジタル情報に交換
「貨幣」は価値を交換するツールです。貨幣を通すことで労働とパンを交換したり、モノとサービスを交換したりできるのです。
その貨幣をデジタルにしたものが「仮想通貨」です。
仮想通貨同士は「交換」可能である一方、自分のものとして「所有」することも可能です。仮想通貨はいわば、貨幣を情報に交換したツールですね。
単なるデジタル情報であればコピー可能なので、通貨としては機能しません。
しかし、ブロックチェーン技術によってデジタル情報を「コピー不可」にすることができるようになったため、通貨として機能する情報が生まれたのです。
さらに、このブロックチェーン技術を使ってアートや音楽などのデジタル情報もコピー不可にすることができますね。
それによって生まれたNFTは、ツイッター社を創業したジャック・ドーシーの最初のツイートが約3億円で落札されたことによって話題になりました。
仮想通貨はメタ(旧:フェイスブック)が注力するメタバースにも関わるので、まだまだ成長途中ですが今後確実に広がっていきますね。
『雇用の未来』/人をコンピュータに交換する
2013年、オクスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授は『雇用の未来』という論文を出しました。その中で「10年後には今ある職種の約半分がなくなる」と予言して、世界中から注目を集めたのです。
そして2017年には『スキルの未来』という論文で、「近未来の雇用市場で必要になるスキルとは何か」というテーマに挑みました。
いずれにおいても、社会の変化やAIの進化によって人の雇用の一部はAIに置き換えられる(交換される)というのです。
これで個人や中小企業のバックヤード業務を効率化できるので、浮いたエネルギーでより価値を生むクリエイティブな業務に集中できます。
また、顧客からの質問に応答するチャットボットを使えば、メールや電話対応する社員の数を減らせます。
ドローンを使えば荷物の配達員は減り、自動運転の車でタクシーやバスの運転手は減るでしょう。無人レジが増えればレジの会計係はいなくなります。
しかしその一方で、「これまでにない新しい価値を生み出す仕事」は今後も無くなることがないのです。AIに取って代わられる側ではなく、AIを使って価値を生み出す側ということです。
そこで必要な力こそが新しい価値を創るクリエイティビティであり、市場で受け入れられるように価値を広げるマーケティングの力です。
クリエイティビティとマーケティングは学び続ける価値が非常に高い分野ですね。